先日、六本木のミュシャ展に行った帰りに青山ブックセンターに寄って、過去の記事「マップ・ヘイター」で書いた福岡伸一先生のオビにつられて手に取り、興味が出てしまった本。
「働かないアリに意義がある」
すんごく面白い。生き物ってすごいなあ。
女王アリ、働きアリなどの「社会」を為している生き物はなかなかめずらしいようで、著者の長谷川先生という方は、アリの社会の研究を主にされている(のかな?)。
有名な「働きアリの2割はずっと働かない」という事実を発表した方のようです。
その「働かないアリに意義がある」というのは次のようなこと。
全員が毎日一生懸命に働くアリだったら、もちろん効率はいいんだけど、集団として滅びてしまう確率が高まるそう。餌を運ぶように、とにかく頑張れ! 的な仕事の他に、それほど大変ではないけれど毎日欠かさず続けなくてはならない卵の世話などの仕事があって、みんながみんな働いていると、忙しい時に後者の仕事がおろそかになり、集団の危機がやってくるんだって。
でも普段働かないアリがいると、忙しい時にそのアリを動員するので、「欠かせない仕事」を継続しやすいのだそう。
普段働かないアリは、集団の「余力」であるということだ。
あと、ある種のハチは巣の温度が高くなると羽ばたくことで空気を循環させて温度を下げるらしいのだが、たくさん働くハチと、よほどのことでは働かないハチ、その間がまんべんなくいることで、ちょっと温度が高いときには少しのハチが羽ばたき、すごく高いときには大勢のハチが羽ばたく、という便利な仕組みが成り立っているらしい! すごいぜ! ハチ!
アリの遺伝の話もあって、結構難しかったけど、こちらも相当興味深かった。
でも私がもっとも心を揺さぶられたのはあとがき。
引用しますね。
発見されているすべての生物が核酸(DNA、RNA)に書かれた遺伝情報をタンパク質に翻訳して生命活動を行うことなどから考えて、地球の歴史上、生命はたった一回しか現れなかったと考えられています。
ここにどうして心を動かされたかというと、先日、天文学でとっても有名な渡辺潤一先生がゲストに出ていたPodcastを聞いたから。実はこの先生一度取材させてもらったことがあって、余計にちゃんと聞いていた、というのもあり。
渡辺先生曰く、「天文学を学んでいる人は、地球外生命の存在を非常に楽観的に捉えています」と。つまり、「そりゃーいるでしょ! こんなに宇宙はデカいんだから!」ってこと。ただ、渡辺先生が加えていたのは「ただし、生物学などを学んでいる人からみると、そんなに簡単ではないようです」。
そこで今回の本の長谷川先生が、生命が現れたのは1回きり、だと言う。
そう思うと、生命のないところから、生命が現れたのはどれほどの奇跡なんだろうかと。しかもその子孫が滅びず、進化して今に至っているのだからすごい。
でも書いていて思ったけど、生命は何回か現れたけれど、生き延びられずに滅びた、っていうことはあるかもしれないよねえ、そのあたり、専門家の方はどう思っているんでしょう。
この前に福岡伸一先生の本を読んだのもあり、学者というのは、本当に美しいものや真理を愛して、それに向かって地道に進んでいるのだなあと思った。
特にこうやって文章に起こしている人にそういう傾向がある、ということはあるのかもしれないけれど・・・。
この本全体では、「一見無駄に見えることは無駄ではない」というのがひとつの大きなテーマなのかな。芸術や娯楽や、無駄に思われがちなアリの研究も・・・ということだよね。