「分人(ぶんじん)」という概念についてひたすら説明している新書なのだけど、かなり納得できて、いろいろなことが腑に落ちる。
分人っていうのは、唯一無二の「個人」に対して、「そんな簡単なものじゃないだろう」と定義された造語で、それぞれの人は、シチュエーションや対人関係によって、いろいろな分人に分かれる、という定義かな。簡単に言うと。
例えば、私には会社の分人があり、怖くて早口で言いたいことを何でも言って……みたいな性格。
家族といるときの分人も怖くて似ているかもしれないけれど、踊ったりするし、時に泣いたりもする。
私は後輩Sさんと会社の帰りによく話すのだけど、Sさん用の分人、みたいなものがある程度あると思う。概念的なことや哲学的なことをよく話す。人の噂話とか、テレビの話みたいなのはまずしない。それはSさんとそういう話をすると楽しいからで、そうしようとしてそうなったわけでもない。
もし金輪際Sさんと会えなくなったら、その分人はお互いに消滅する。自分でも、もう二度とその文人には会えないのだ。だから人が亡くなったり、会えなくなると辛いのかもしれない、と言うことも書かれていた。
それをこれまでは「仮面」とか「演じている」みたいに表現していたわけだけど、それだと意図的にしているみたいだし、相手をだましているような意味にも取れる。さらに、「本当の自分は違うんだ」みたいな意図が込められているようにも感じる。
だけど仮面のように意図的に付け替えているわけでもないし、相手をだますつもりでもない。多くは無意識のうちにそういう分人が構成されて、良い関係性なら、分人を育んでいくことも可能になる。とか。
あとは、分人の割合というものもあって、私は会社の分人が大きくなることで、総体的に怖い部分が強くなったり・・・みたいなことも起きる。のだそう。
先日、お酒のエントリーでも書いたのだけど、前の会社で、おじさまたちと飲むのが大変に楽しかった、と書いた。その時の私の分人は、できないところ、ダメなところがたくさんあって、なんかとんちんかんなことを言ったりして、「まったくおまえは!」みたいな感じだったんじゃないかなとか。少なくとも今よりはそんな要素が強かったように思う。私の今の生活ではその分人が出てくる余地はなく、会社の立場は割と上の方だし、年齢でも上の方だし、「しっかりしている」みたいな分人の要素が強くなってしまっている。だからちょっと不完全なキャラクターの分人が懐かしいし、味わいたいと思ってしまうのだろう。
「あの人が好き」と言う時に、「その人といる自分の文人が好き」と言い換えられるのではないかとも書かれていた。
だから、おじさまたちが好きだったと言うよりは、そこにいる自分が好きだった。心地よかった、それはすごく腑に落ちる。
フラのことを考えた。
最初の日本のお教室。4名しかいない上のクラスに入り、目を掛けてもらって、どんどん成長していた。仲間もすごく絆が深かった。そんな自分の分人が好きだったんだと思う。
ハワイではどうかな。レッスンは本当に楽しかった。これは分人が好き、にはあまり当てはまらないかもしれない。
日本に戻ってきて別のお教室に入った。25人の上のクラスに入れたけれど、もともといる人達の和になかなか入れなかったし、居心地が悪いこともあった。静かな人(あるいは怖い人、暗い人?)と思われていたかもしれない。そんな分人が気に入っていなかった。だから辞めてスッキリしたのかもしれない。
で、本当の自分なんてないんだそうだ。人とのつながりで人は構成されていくわけだから、と。
本を読んで何かに心酔しているときは、その作家用の分人なのか? そのあたりの説明もあったけれど、ちょっと納得がいかなかったかな。消化不良という感じ。
誰とも共有できないものはある。それは過去の自分と今の自分の間に生まれる分人なのかもしれないけれど・・・これはちょっと無理矢理な理屈っぽいか。
私がもともとそういう考えを持っていたことがあるとしたら、次のようなこと。
すごくむかついた人がいたとする。なんだこいつ、どうしてこんな性格で今まで生きてきたんだ、と思ったときに、でもその人にも友だちはいるはずだ、と考える。
だから、友だちの前ではとてもいい人かもしれないし、愛すべき特性があるのかもしれない。
特に女性の場合は、ハードボイルド的に斜めな感じの人ってあまりいないので、友だちにとってはとてもいい人、ってタイプが多いのではないかと思う。
人って多面性があって、私の前でひどい態度を取ったとしても、ある面ではいい人なんだろうなあ、って思う。
それって、分人の概念だったんだなって。
血液型診断の大好きなA型の女性がいて、「B型の、特にオトコってサイテイ」って言っていた。
なぜって、付き合っているときにこんなことをしてあげたら、すごくヒドイ態度をされた。聞くと確かにひどいんだけど、それってもう相手があなたのこと好きじゃなかったんでは? と思った。
だから、その人が根っから悪い人なんじゃなくて、あなたに対してそういう人になっちゃっただけなんじゃないの、って。
それも分人の概念ですな。
だから私は自分の気に入っている分人をもっと増やしたいなと思う所存であります。
会社の分人は必ずしも気に入ってはいない。居心地はいいんだけど、怖いし、反抗的だし、テキパキしすぎているし、なんというか、スキがない。そう、まさにスキがないんだな。
そんな分人ばかりじゃないんだけど、会社以外で人と会わないので、比率が大きくなりすぎている。
元フラ友のNちゃんはいいかげんで面倒くさがりな私をすごく知っていて、許してくれて、だから居心地がいい。考えてみたらそんな人今までいなかったかもしれないな。ありがとうNちゃん。