Low Kick - 2nd -

たぶん全部ひとりごと。 テキトーだけどマジメです。

幸せを測る5つの要素 ~『ポジティブ心理学の挑戦』の感想~

以前ブクログに書いたものを貼り直し。自分のブログにあったほうが見返しがしやすいので。

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●全体の感想
マーティン・セリグマンはポジティブ心理学の父と言われる人。過去に『オプティミストはなぜ成功するのか?』という本を出している。その本も大変面白かったが、タイトルがよくないのか、「楽観主義者は成功する」という内容が受け入れがたいのか、あまり名前を聞かない本ではある。ただ、「楽観主義者」をしっかり理解して考えれば考えるほど納得できる内容だ。この本は、当時よりさらに発展したポジティブ心理学の全体像を伝えているのだろうと思う。「幸福理論(幸せであるという感覚を求める)」と言われる部分はポジティブ心理学の一部に過ぎず、ウェルビーイングを目指す場合にはほかにもたくさんの要素があるということが印象深かった。2014年だから結構古いが、やはりそんなに広まっていないのではないかと思う。なぜなんだろうね?

 

●要するにこういう本
マーティン・セリグマンによるポジティブ心理学の研究をあらゆる角度から説明した本。読み手にとって「何(どこ)を目指して読むか」という部分に一貫性がないので読みやすいとは言えないが、多くのエピソードやエクササイズなどが掲載されていて興味深い。

 

●気になったところとその理由
・「幸せ」の一元論を解消するという話が興味深い。幸せの測り方は「満足度」だけで語られている、というのは、他の方からもよく聞いていたので「このことか!」と思った。一元論とは、人間のあらゆる動機がひとつのものに帰着するという考え方らしい。しかし、著者が定義するウェルビーイングはそうではないという。私がこの本を読み始めたのは、「自分は何を目的として生きればいいのか?」のヒントが欲しかったからだ。「幸せ」という単純な言葉ではわからない。例えば、広い空を知らずに一生かごの中で過ごす鳥が「幸せ」であるかもしれない。それは究極的には「幸せと思えればいい」からだ。でも、自分だけでなく子育てを考えるときにそういうわけにはいかない。催眠術でもかけて「幸せと思い込む能力」を増やせば幸せと思えるかもしれない。でも、私はそうやって一生を過ごすことに釈然としない気持ちがある。そうではなくて、自分のできる範囲で広い世界を知って、自由を知って、自由の不自由さもかみしめながら充実した人生を歩んでほしい。自分もそうだし、子どももそうだ。そのために、何を優先すべきなのかを知りたかった。だから、一元論ではないのであれば何なのだ、ということが知りたいのだ。

ウェルビーイング理論の5つの要素が書かれていた。早速知りたかったことが書かれている。5つの要素があり、「ポジティブ感情(Positive Emotion)」「エンゲージメント(Engagement)」「ポジティブな関係性(Relationship)」「意味・意義(Meaning)」「達成(Achievement)」となる。すべてを合わせて「PERMA(パーマ)」と呼ぶらしい。ポジティブ感情は、幸福理論全体の目標として位置づけられていたが、ポジティブ心理学では5つの要素の1つでしかないという。エンゲージメントは、ほぼフロー状態のことだという。私は常々「フロー状態を増やせば幸せになれるのでは」と考えていたが、それだって5つの要素の一つに過ぎないのだ。幸せだという催眠術をかけられているのと同じ。まあ、そうなのかもしれない。考えを改めようと思った(笑)。ポジティブな関係性は、よく言われているので私も結構意識している。「意味・意義」は頭で考えることのようだが、ウェルビーイングな状態に寄与するわけだ。確かに、人生の満足度は上がるだろう。最後の「達成」という考え方がおもしろい。成功するとか、目標達成なんかは、人生の目的という大局から捉えたときに小さいものだと揶揄されがちだが、これもウェルビーイングの要素なのだ。すっきりとこういってもらえた方が納得感がある。人はそれを求めてしまうし、5つの要素の一つとして、ウェルビーイングに寄与するのだ。私はストレングスファインダーで「達成欲」が上位にある(2以か3位)。だから毎日いろいろなタスクをこなしていくことに喜びがある。それはつまらないこと(仕事では役に立つけど)と思っていたけれど、大事なことだったのだ。

・ポジティブ感情を増やすためのエクササイズやワークがいくつか紹介されていた。「感謝のエクササイズ」は感謝したい人に手紙を書いてありがとうと伝えること。また、「うまくいったことを書き出す」というワークは、毎日うまくいったことを3つ書き出し、合わせてうまくいった理由を書くというもの。半年も続ければ、落ち込むことが少なくなり、幸せになるという。こういうことをいくつか覚えておくのはいいことだ。私は「GIVEの実験室」というコミュニティで毎日「3行日記」を書いているが、よいことばかりではない。ちょっとよいことに寄せて、うまくいった理由まで書くと、ポジティブ感情が増えていくのかもしれない。

・夫婦の強いきずなを予測するのは喧嘩のやり方ではなくお祝いのやり方だと書かれていた。これが書かれていたのは「薬とセラピーの”ばつの悪い秘密”」という第3章。薬や治療には、「一時しのぎ」と「治療」があるという。夫婦カウンセリングでは、うまい喧嘩のやり方を教えるが、実際にはお祝いのやり方のほうがきずなには大切だという。「いいことがあった」という報告の反応が大事だということだ。「積極的」かつ「建設的」な反応を見せる夫婦がよい関係を築きやすいという。私も夫婦でそういう試みをしてみようと思った。よいことを話して、聞いて、お互い追体験するようにする。寝る前にそういう話をするだけでも良いかもしれない。

・スナイパーや飛行士の訓練のされ方がめちゃくちゃ印象的だった。「ネガティブな感情と付き合う」という項だった。スナイパーはたいてい丸2日寝ないで狙撃するらしく、戦闘機パイロットは震え上がるような状況で操縦する機会がある。眠気覚ましをしたり、リラックスする方法を教えるのではなく、スナイパーには三日三晩寝ずにぐったりした状態で射的の練習をさせ、パイロットには地面にぶつかるすれすれまで突進させ恐怖に陥れたうえで正しく操縦する練習をさせる。これがいいというわけではないが、そういう訓練をしているということがとても印象に残った。最近私は、落ち込んでいるときも悲しい時にも、難なく仕事に向かうことができる。若い頃はそうでもなかったように思う。これがネガティブ感情との付き合い方としていいことなのかは定かではないが、訓練によってできるようになってきたのかもしれない。

・ロサダ比というのが有名だ。職場において、ポジティブな発言とネガティブな発言の比率が2.9:1以上であると会社の成績が良いというのだ。気になったのでググってみると、わかりやすいので多く広まり、さまざまな場所に転載されている。最近読んだ本にも3:1の法則として書かれていた。ところが、その本には「誉め言葉を増やす」と書かれていた。私が読んだ限り、マーティン・セリグマンのこの本には「誉め言葉」とはどこにも書かれていない。ポジティブな言葉とは、「一緒にやりたいね」とか、楽しい冗談とか、そんなのも含まれているのではないかと理解している。それが「誉め言葉」になってしまうのは、コピペ記事の大いなる弊害だ。加えて書かれていたジョン・ゴッドマンの話も興味深い。私がとても好きな夫婦関係のことを書いた本はジョン・ゴッドマンが著者で、夫婦の場合にはその比率が5:1になるのだという(これは本で読んでいた)。私もこれを心掛けていきたいと思う。

・人は、過去に突き動かされるよりも未来に引き寄せられていくと書かれていた。これは、「知性に関する新理論――今季、徳性(キャラクター)、達成」という第6章の、「ポジティブな特性(キャラクター)」という項。私は大人になってコツコツと物事を進められるようになり、未来のことをいつも考えていなくても、自分のモチベーションを維持できるようになってきた。だから、子どもにもそのように習慣づけてほしいと思っていたが、それはアプローチが違っていたのかもしれない。やはり、未来を見つめて、そのうえで今やることを決めるほうが気持ち的には筋が通っている。子どもにはもっと未来のこと、大局的なところから話をして、一緒に考えていくべきなのではないかと思った。

・自制心(GRIT)は、学業成績が上がるための大きな要素だという。IQよりも、自制心の高さにより学業成績が左右されると書かれていた。女性のほうが自制心が強いため、成績がよいというのだ。わが子は自己コントロール能力が高くないと思う。自制心も高くない。IQは高いのではないかと思う。頭は良いと思うし、そういわれる。成功の要素は「速いこと」「遅いこと(じっくり考える、創る、計画を立てるなど)」「学習率(学習速度が速い)」「努力(自制心と根気)」だと書かれていたので、自制心がすべてではないが、4つの大事な要素のうちの一つだということだ。自制心を強化するのか、ないままに他の要素で補うのか、育てながら考えることになるだろう。いずれにしても自制心を強化する方法は、GRIT(以前読んだが……)を見ればもう一度わかるのだろうか。ゲームの練習は、ひたすら一人でコツコツやっている。これも努力の一つだと思うので、やりたいことならやれるのかもしれない。

・コーチの楽観主義は、チーム全体の楽観主義と等しいという話も興味深かった。楽観主義とは、以前読んだ『オプティミストはなぜ成功するか』に詳しいので省略するが、起きた出来事に関してどのように説明するかという説明スタイルによって分けられる。コーチが楽観主義(成功の要素が強い)だと、チーム全体がそうなるという。リーダーは、楽観主義であるほうがいいのだろう。家庭でも同じかもしれない。

・「富はウェルビーイングのためにあるべきだ」と著者が思っているということがとてもよかった。富は経済のためでもなく、さらに資本を増やすためでもなく、ウェルビーイングのためにあるべき。富だけでなく、時間もそうだろう。人生において何を大切にすべきかを考えたくて、そのヒントにしたくてこの本を読んだが、富(お金)に関してもしっかりとそう書かれていてうれしかった。